『……もしもし、司?』
夜。
深夜に近い時刻。
弘正さんから着信があった。
『起きてた?』
「起きてたよ」
電話口の向こうは、風の音が聞こえる。
「まだ外にいるの?」
『うん、今日色々とあって……』
どうやら会社内でトラブルが発生したらしく、弘正さんはそのために遅くまで会社に残っていたらしい。
『まぁ、ちょっとだけ寄り道していたけどね』
顔を見なくても分かる。
ニッコリ微笑んでいるに違いない。
弘正さんは穏やかで、どんな時も優しい。
大抵のことは許せるおおらかな人だ。
人の長所を見てくれる。
いつもニコニコしていて、そのことに私はとても安心する。
だけど。
当然ストレスだってあると思う。
だけど弘正さんはストレスを抱えている様子を人には見せない。
今夜みたいにどこかに寄り道して、ひとり静かにストレスとさようならをしているんだと思う。