ある年。
秋のはじめ。
「オレとの結婚、考えてくれる?」
デートの終わり。
偶然見つけた「黒猫」というカフェの店内で。
羽山弘正さんは、さりげなく私の手を握って、そう言った。
……結婚。
私、横手司は一瞬、訳の分からない表情をしたと思う。
「結婚……、弘正さんとの」
「うん。オレと、司の結婚」
弘正さんはニコニコ笑って、握った手にほんの少しだけきゅっと力をこめた。
結婚。
私の頭の中はどんどんクリアになり、その単語が脳内でかけ巡る。
頬の血行がものすごく良くなる。
「あ、顔が赤くなった」
弘正さんは嬉しそうに私を眺めている。
「やめて」
顔を隠そうとしても、弘正さんに手を握られていることを思い出し、俯くことしか出来なかった。
「あっ!!」
弘正さんが突然大きな声を出した。
店内にいる他のお客さんが一斉に私達を見る。