「じゃ、私こっちで」
幸絵さんに片手を上げる。
「あれ?方向、違くない?」
「あ、はい。恋人の……部屋にちょっと用事があって」
ここ最近、優大くんのお仕事がいつもに増して忙しくなったから。
私は優大くんの部屋に行って、マーチとポルカにごはんをあげるという大役を買って出た。
幸絵さんはニィーッと笑って、
「よし!行ってこい!!コノヤロウ!!」
と、私の背中を押した。
笑いながらお別れを言って、優大くんの部屋を目指し歩き始めた。
「マーチ、ポルカー、ごはんだよー」
リビングに置いてあるマーチとポルカのお皿に、猫用のごはんを用意した。
ポルカはびゅんっとやって来て、嬉しそうにしっぽを立ててカリカリと音を鳴らして食べている。
マーチもやって来た。
ポルカに自分のごはんを食べられないように、ほんの少し用心しながら食べている。
お水も新しいものに変えて。
私はマーチとポルカに向かってわざとらしく、くまのぬいぐるみを見せてみた。
「こんばんはー、くまさんでーす」
寄ってきてくれないかな?
一緒に遊べないかな?
そんな淡い期待を抱いているものの。
マーチもポルカもチラリとこっちを見ただけで、すぐに寝室のほうへ去って行く。
……うーん、手強い。