少し肌寒くなってきて、秋を感じるようになった。

武岡さんは相変わらず「黒猫」に来てくれる。



「今日は来るかなー、武岡さん」
田谷さんがカウンター席から扉を見て呟く。


「田谷さんは、武岡さんが好きですねー」
カウンターの中から薫おじさんが話しかけた。

「えー、店長だって好きでしょうよ」

「えー、まぁー、そうですねー」

おじさんふたりがイケメンについて好き好き言っている光景は、何故か聞いている私が照れてしまう。


「なんで深雪ちゃんが頬を赤く染めてるのさ」
私の様子に気づいて、薫おじさんが笑った。




「それにしても武岡さんって、何している人なんだろうねー?」
田谷さんが今日も頼んだホットコーヒーを飲みながら、遠い目をした。


「……まぁ、何だっていいじゃないですか。武岡さんは、武岡さんですよ」
と、薫おじさん。


薫おじさんのこういうところを、私は尊敬している。

人を受け入れるところ。

いつだってどっしりとかまえて、ちゃんと受け入れてくれる。

就職出来なかった私を、この店に誘ってくれた時みたいに。