今の今まで本を渡すことに必死だったことと、キャップ発言の恥ずかしさで、全然気づかなかった。


よく見ると着ているお洋服もオシャレだ。


よくあるようなグリーンのTシャツとデニムパンツを着ているだけだけど。

さらっと着こなしていて、オシャレだ!




……ハッ!

「すみません、お客様もお忙しいのに」

引き止めてしまった。


私はもう1度頭を下げて、
「では、失礼致します」
と言った。



お客様も、
「あっ、はい。失礼致します」
とお辞儀してくれた。






回れ右をして、歩き出す。

お店に一旦戻って、おつかいに行かなくちゃ。




そう思いつつ、私はある思いが心の中にぷかぷか浮かんでいることに気づいていた。





……あ〜ぁ。


もっと話していたい人だったなぁ。









お客様に対して、そんなことを思うのは初めてだったので、なんだか胸が騒がしくなってしまった。