あれ、そういえばどんな服装だったっけ?

帽子被ってたよね?


あの、ほら、野球帽っていうか、ほら……。



物の名前がスッと出てこないお年頃になったんだろうか。



とりあえず左方向にかけ足で進み、お客様を探す。


帽子、帽子、帽子……。


頭の中で唱える。



だけど、すぐに私の足は止まってしまう。


前方に見えるのは、三叉路。

みつまたに道が分かれている。





……どうしよう?





持っていた文庫本を見つめる。

黒い革のブックカバーがキレイ。

お客様にとって大切な本かもしれないのに。


「どこに行ったんだろう……?」
ひとり呟いて、途方に暮れていたその時。





「あの、すみません」


声をかけられた。


文庫本から顔を上げてみると。



「あっ!!お客様!!!」




文庫本の持ち主である、お客様が立っていた。