薫おじさんと田谷さんが雑談を始めたので、私はおつかいに行く準備を始めた。
すると。
男性のお客様のスマートフォンが鳴った。
お客様は電話に出て、
「すみません、少ししたらかけ直します」
と言って、電話を切った。
それから席を立ち、
「すみません、お会計お願いします」
と、レジまで移動した。
「ありがとうございましたー」
と、レジ打ちをしてくれた薫おじさんの声。
……結局何の本を読んでいたのか、分からないままだったな。
少しだけ残念な気持ちで、何気なく男性のお客様がいた席を見ると。
……!!
文庫本が置きっぱなしになっていた。
私は急いで薫おじさんにこのことを伝えて、文庫本を持ち、お客様を追いかけた。
お店を出て、左手のほうに歩いて行った姿は見ていた。
だけど、もうお客様の姿は見えない。