ドアに手を掛けた刹那、背後から比較的明るいトーンで聞かれる。
「私はまあ、どうして君がやめちゃったのかよく知らないし、だから無理に戻っておいでとも言えないのが歯痒いんだけど……でも、君の絵に惹かれてる人も、原動力になってる人も、沢山いる」
それから彼女は、続けた。
「もったいないよ。せっかく才能があるのに」
ああ、この人も同じだ。
もったいない。その言葉に責任を全て押し付けて、片付けようとする。
どうして君がやめちゃったのかよく知らないし――だったら、適当に踏み込んでこないで欲しい。
知らない。分からない。それはあらゆる努力を放棄して自分を正当化するための、一番便利な凶器だ。
「……戻りませんよ。そのつもりでやめたんですから」
上手く表情を取り繕えている自信がなかったから、振り返ることはしない。口調だけは一丁前に穏やかだった。
『先輩は、どうして美術部をやめてしまったんですか?』
どいつもこいつも何なんだ。僕はお前らのために部活をしていたわけじゃないし、絵を描いていたわけじゃない。僕がやめようがどうしようが関係ない。
荒んだ心境で開けたドアは建てつけが悪く、不格好な音を立てる。それが苛立ちを助長した。