微塵も心がこもっていない言葉を告げたのに、彼女はあっさりと信じたようだった。両手を合わせて挨拶をした後、ナイフとフォークを持ち上げる。
切り分けられた柔らかい生地のうち、一つが彼女の口に吸い込まれていった。決して小さいとは言えない口が目一杯開く。ぱくり、という擬音がここまで適切に使われるべき場面はないだろう。
「んん~~~、ふわっふわ!」
目を細めて満足気に食レポをする彼女。それはそれは美味しそうに食べるものだ。
真っ赤ないちごも彼女には鮮明に見えているのだろう。僕が見ているよりもずっと、食欲をそそるファインダーを持っているに違いない。
「航先輩、すっごく美味しいですよ、これ!」
ああ、そうだろうね。綺麗じゃない、くすんだ世界なんて君は知らないだろう。そういうふうに生きてきた人間に分かりっこないんだ。
知らない。分からない。――いや違う。知られてたまるか。分かられてたまるか。のうのうと生きてきたお前らなんかに、僕の一部でも理解したつもりにさせるものか。
「ねえ。やっぱり、ドリンク頼んでもいい?」
「いいですよ!」
「あとトッピング追加でアイスと、それから……」