でも、赤は嫌いだ。自分が赤だと思っている色はきっと、他の人からしたら赤ではない。
じゃあ僕がいま見ている色は一体、何色なのか。それは一生分からない。
「食べないの?」
パンケーキを目の前にして一向に手をつけない彼女に、そう問うた。
彼女は背筋を伸ばして僕を真っ直ぐ見つめると、大きく一度頷いてから口を開く。
「先輩のが来たら、一緒に食べます」
なるほど、そういう魂胆か。
健気さをアピールしたいのか、可愛さを演出したいのか知らないけれど、そんなことをされたって僕は別に何とも思わない。
「いいよ。先に食べて」
「いーやーでーすー」
口を尖らせる彼女に少々げんなりした。それを顔に出さないよう気を張りつつ、僕はぐっと口角を上げて努めて穏やかに促す。
「美波さんが食べてるところ見るだけで十分楽しいから。食べなよ」
この前のように、うっかり嫌な態度を取らないように気を付けていた。
人懐っこくて誰からも好かれやすい。それが長い時間をかけて培ってきた、「僕」の理想像だ。こんな些細なイレギュラーで、僕の周りからの評価を崩されるわけにはいかない。
「そうですか? うーん……じゃあ、お言葉に甘えて。いただきます!」