頼み事は得意だけれど、頼まれ事は苦手だ。それに、彼女の面倒をみたところで僕にメリットはない。
だからいつもやんわりと断っていたのに、どういうわけか、今日は「一緒にパンケーキを食べに行きたいです」と力説された。
なかなか引き取ってもらえないことに苛立っていたし、頻繁に僕の元へ通う彼女に周囲からの同情票も集まっていた。仕方なく僕は自分の面子を守るため、彼女に従うことにしたのだ。ただし、彼女の奢りという条件付きで。
彼女の目的が分からない。本当に絵を見てもらいたいのか、それは口実で、こうして僕との時間を過ごしたいのか。
距離の詰め方が若干強引で馴れ馴れしいけれど、見え透いた下心も感じられない。今のところ害はないから、適当に相手をしてやろうと思っていた。
「お待たせしました」
先にテーブルへ運ばれてきたのは、彼女が注文したパンケーキだ。三段重ねの生地に、白い生クリームといちごのソースがかかっている。
赤が全く見えない、というわけではない。むしろ鮮やかな赤なら、それなりに判別できる。光の当たり方や様々な要因によって赤と緑の区別がつきにくいけれど、そこは人に頼って上手くやってきたのだ。