「えーと、アイスティーといちごパンケーキ、それから……」


向かいに座る彼女がメニューを指しながら注文をしていく。その瞳がつとこちらを捉え、僕の顔を窺うように揺れた。


「航先輩は、何にしますか?」

「……抹茶」

「じゃあ抹茶パンケーキ一つで!」


かしこまりました、と店員が頷いて、注文を復唱する。
その流れを終え、目の前の相手は改めて僕に向き直った。


「そういえば、航先輩の分のドリンク頼んでなかったですね」

「僕はいいよ。それより、」


どうして下の名前で僕を呼ぶの?
問いは喉の奥に詰まって上手く出てこなかった。そんな僕の様子を訝しんだのか、彼女は首を傾げる。


「何ですか?」

「……何でもない」


自分でも釈然としない回答だったけれど、次の瞬間にはニコニコと上機嫌になっている彼女を見れば、訂正する気も失せた。

美波清。先日そう名乗った彼女は、あれから度々僕の元へやって来た。
無駄に元気で声が通るせいで、とにかく目立つ。毎回懲りずに彼女が僕に言ってくるのは、「私の絵をみてくれませんか」ということだった。