「それで叔母様から聞いたけど。大泊瀬(おおはつせ)、あなた最近葛城の姫の元に通ってるそうね」

阿佐津姫(あさつひめ)はとても興味津々そうにして彼に聞いてきた。

それを聞いて大泊瀬皇子(おおはつせのおうじ)は思った。

今この2人がこれほど盛り上がっているのは、恐らく自分の話を話題にしていたのであろう。

「そうなの。これには本当に驚いたわ。だって、大泊瀬の恋がやっと報われたのだから」

忍坂姫(おしさかのひめ)も自身の息子のことではあるが、余りに面白いのか、少し笑いを堪えながらそう話す。


「と言うより母上、どうして阿佐津姫にそのことを話したのだ。まだこの件については、余り話さないで欲しいといったはずだが……」

大泊瀬皇子は少し苛立ちながらいった。

草香幡梭姫(くさかのはたびひめ)との婚姻の件もあるので、彼的には余り騒ぎ立てはしたくなかった。

だがその割りに、頻繁に韓媛(からひめ)の元に通っているので、少々説得力にかける所はある。

「まぁ、それは悪いとは思ってるわよ。ただ今日は、阿佐津姫と最近あったことを色々を話していたら、ついついその話しをするはめになってね……
まぁ私と阿佐津姫は気心しれた仲だから大丈夫よ。別に2人の邪魔をする気もさらさらないし」

忍坂姫は少し申し訳無さそうにしながらいった。

「そうよ大泊瀬。私も特に周りにいいふらすなんてことはしないから、安心して」

阿佐津姫もそう彼にいう。
だが余り悪びれてる感じには見えない。

大泊瀬皇子もそれを聞いて思わず肩を落とした。どのみちここまで話されていたのであれば、もうどうすることも出来ない。

ここは阿佐津姫の言葉を信じるほかないだろう。


それまで必死で笑いを堪えて話していた忍坂姫も、そんな彼を見て急に表情を変える。

「大泊瀬、前回の眉輪(まよわ)の件に関してあなたが起こした行動について、今回は目をつぶることにしました。亡くなった2人に関しても、抵抗しなければあなたが殺されていたのだから。
それに大王の暗殺を子供だからといって許していたのでは、また同じようなことが起きるかもしれない……」

忍坂姫からすれば、亡くなった2人の皇子と大泊瀬皇子、どちらも大事な自身の息子である。どちらが亡くなったとしてもきっと同じように彼女は涙を流して、酷く悲しんでいたはずだ。

「でも、あなたも今は大切な姫が出来た。そんな彼女を守るためにも、今後は余り無茶なことはしないでちょうだい」

大泊瀬皇子は母親である忍坂姫にそう言われて、思わず言葉が出なくなってしまった。

韓媛は絶対に自分が守って幸せにする。彼女の前でそう誓っていった。

それは彼女の父親を死なせてしまった償いと、そして彼女のことが他の誰よりも大切な存在だからだ。