そこまで考えると彼は大きな決断をすることにした。

「確かに今の大泊瀬(おおはつせ)が大王になるのは危険だ。それに俺は自分だけでなく、自身の大事な家族も守りたい。であれば大泊瀬には消えてもらうほかない」

市辺皇子(いちのへのおうじ)、ではご決断して頂けるのですね」

市辺皇子の元にやってきた彼らは、それを聞いて思わず歓喜の声を上げる。

「だが俺は十分な兵も持っておらず、それに大泊瀬を討つ明確な理由がない。なので直接大泊瀬を殺しにいくほかないだろう」

市辺皇子には大泊瀬皇子(おおはつせのおうじ)ほどの権限や力は持ち合わせていない。それに今は葛城を頼るのも厳しい状況である。

「では方法はこれから考えるとする。だがその方法もお前達には教えられない。どこで情報が漏れるか分からないからな」

この話が大泊瀬や他の大和の者の耳にでも入れば、自分は恐らく殺されてしまうだろう。

「はい、それで構いません。我々もここにはそれなりに覚悟をして参りました。もし何か協力できることがあればぜひおっしゃって下さい」

市辺皇子と彼の前にいる者達は今同じ立場に立たされている。

「あぁ、分かった。では何かあればお願いする」

それを聞いた訪問者たちは、その後「ではこれで失礼します」といって市辺皇子の元を後にした。


それから市辺皇子は1人になると今回の件について考えを巡らせた。

「とりあえず大泊瀬が1人になった所で仕掛けるしかない。その方法に関してはこれから考えるとしよう」

そして市辺皇子の脳裏にある人物の顔が浮かんだ。

(忍坂姫(おしさかのひめ)、あなたの息子を殺すことになって本当にすまない。だがこれも今後の大和のためだ)

こうして市辺皇子の恐ろしい計画が始まることとなった。