そして次の大和の大王を、いよいよ決めなくてはならない頃になっていた。

そんな中、数名の者が大和の1人の皇子の元にやってきていた。彼らが会いに行ったのは葛城筋にあたる市辺皇子(いちのへのおうじ)である。

「俺に一体何の用事だ」

市辺皇子は少し怪しみながら、彼の元にやってきた者達にたずねる。

するとその者達の1人が代表して話しを始めた。

「はい、市辺皇子もご存知と思いますが、穴穂大王(あなほのおおきみ)眉輪(まよわ)に殺されてしまいました。
そこで我々としては市辺皇子、是非ともあなたに次の大王になってもらいたい」

市辺皇子はそれを聞いてとても驚く。確かに自分も大和の皇子ではあるが、母親が葛城の姫ということもあり、血筋的に優先順位は下がると思っている。

「俺は葛城筋の皇子だぞ。それに比べて皇女の母を持つ大泊瀬(おおはつせ)の方が、血筋的には有利なはずだ」

(こいつらはなぜ俺を大王に押したがるんだ)

「私達は元々穴穂大王に支えていた者です。穴穂大王は生前に自分にもしものことがあれば、次の大王はあなたにしたいといっておられました」

「何、あの穴穂がそのようなことを?」

市辺皇子は少し意外に思えた。彼は弟の大泊瀬皇子(おおはつせのおうじ)と割りと仲が良いように見えた。なので自身の次は弟の大泊瀬を指名しそうなものである。

「はい、本当です。それに大泊瀬皇子はまだ若いうえに、少し行動にも問題が見られます。今後の大和のことを考えるなら、やはりあなたに大王になっていただく方が懸命です」

(なるほど、そういうことか……)

確かに大泊瀬皇子の行動には市辺皇子も難色を示していた。穴穂大王が殺害されたのち、彼は2人の兄弟を殺して、さらに眉輪とあの葛城円(かつらぎのつぶら)までもを自害に追いつめた。
葛城と縁の深い市辺皇子にとって、葛城の衰退はとても喜べるものではなかった。

「だがそうはいっても大泊瀬の優位性に変わりはない。それなのにどうやって俺が大王になれるんだ?」

「はい、市辺皇子が無事大王になったとしても、大泊瀬皇子の存在はとても危険です。今度は市辺皇子の身に危険がくるやもしれません。
であれば彼には何らかの方法で消えてもらった方が宜しいかと」

市辺皇子はそれを聞いて、この者達の意図していることにようやく気付いた。

「なるほど、大泊瀬を殺して大王になれということか。
確かに大泊瀬がいなくなれば、俺が大王になる可能性はかなり高くなる。
それに穴穂が俺を次の大王にと考えていたのであれば尚更だ」

「はい、このことは皇后の中磯皇女(なかしのひめみこ)にも穴穂大王は話されています。もしかするとそれ意外にも、話しを聞いている者がいるかもしれません」

(確かに今の大泊瀬を大王にするのは少し危ない気がする。それにこの者達のいうように次は俺が狙われる可能性だってある)

また市辺皇子は自分だけでなく、妃の荑媛(はえひめ)と2人の息子にも危害がでないかと懸念した。特に彼の2人の息子は大和の大事な皇子だ。