大泊瀬皇子(おおはつせのおうじ)、ではもしかするとお父様は……」

すると大泊瀬皇子はそっけなくしていった。

「俺自身は葛城円(かつらぎのつぶら)眉輪(まよわ)は死んだと思っている。だが肝心の遺体がないので死んだといえる証拠はない。
ただ混乱がおきても困るので、皆には2人は死んだと話している。これをどう受け止めるかはお前次第だ」

大泊瀬皇子はそういうと、それ以上は何も語ろうとはしなかった。きっとあの事件から日数もだいぶ経ったので、彼は彼女に話すことにしたのだろう。

韓媛(からひめ)もこの話しは胸の内にしまっておくことにした。
例えもう2度と父親と会えなくなったとしても、彼がもし生き延びてくれているのであればそれで十分である。

「大泊瀬皇子、本当に有難うございます」

そういって韓媛は思わず彼の手にそっと触れる。彼にもこんな優しさがあるのだなと思うと少し嬉しくなった。

すると大泊瀬皇子は無言で韓媛の頭を軽くなでた。これが韓媛に対しての彼なりの心遣いなのであろう。

そして暫くすると2人は山の麓まで降りてきており、丁度綺麗な夕日が現れていた。


そんな綺麗な夕日を見ながら、2人は韓媛の住んでいる家へと向かった。