大泊瀬皇子(おおはつせのおうじ)はもう私のことを妃のように扱って頂いてたのですね」

韓媛(からひめ)は自分のことを、彼がそこまで真剣に考えていると知って、とても嬉しくなる。

「まぁ、そうだな。間が空いて心変わりでもされたらたまらない。お前は何年もかかってやっと振り向かせた相手だ」

大泊瀬皇子は少しぶっきらぼうにしてそういった。

「大泊瀬皇子でも私が他の人に取られたらと、心配することもあるのですね」

ここまで自分のことを想ってくれている彼だ。そんな彼なら不安に思うこともあるのだろうと彼女は思った。

だがそんな皇子からは意外な答えが返ってきた。

「いや、そういう心配はしていない。そんな相手が現れたら、そいつを脅す等して、お前に近寄らせないようにする。それも無理なら最悪排除すれば良いだけのことだ」

大泊瀬皇子はそんなことをいとも簡単にいってのける。

(つまり大泊瀬皇子からしたら、私に近づく男性は全て敵とみなし、その都度追い払うってこと?)

韓媛は何という話しを聞いてしまったのかと思った。これはさすがにちょっと異常な気がする。

「大泊瀬皇子、過去にもそういったことをされてたのですか?」

「あぁ、そうだ。子供の頃もお前を苛めたり、言い寄ってくる奴らは皆そうしていた。ちなみに葛城円(かつらぎのつぶら)もそのことは知っていたようだ」

(え、お父様もこのことを知っていたの……)

韓媛はこれにも少し驚いた。父親もそれであれば内心とても困っていただろう。

「円は相手の子供の心配と、自分の娘に変な虫がつくのを懸念した。それでそれ以降は同年代の若者をお前に近寄らせないようにしたようだ。
どのみち彼はそれなりに力のある男の元に、お前を嫁がせようと考えてたらしい」

(だからある時期から葛城の男の子達が私の前に現れなくなったのね。まぁ理由が理由だけにお父様も中々いえなかったのだわ)

「でも円がそう対応してくれたおかげで、その後4年間のあいだ俺が葛城に行かなくても、お前が他の男に目を向けることを回避できた」

韓媛は本当に何ということだろうと思った。もうすんでしまったこととはいえ、その被害にあった子達に対して、今更ながら本当に申し訳なく思う。

「とりあえず俺としては早くお前を正式に妃にして、落ち着きたいものだ」

(もう、これは本当に仕方ないことね……)

「確かに大泊瀬皇子は、早く妃を娶って落ち着かれた方が良いかもしれませんね」

韓媛も少し呆れはしたものの、それでも彼の真剣さは十分理解できたので、ここはもう大目に見ることにした。