翌朝の日が明けるやいなや、遠飛鳥宮(とおつあすかのみや)の元に穴穂大王(あなほのおおきみ)の住まいであった石上穴穂宮(いそのかみのあなほのみや)から、早馬にて至急の連絡がやってくる。

突然の早馬の到着に、遠飛鳥宮の人達もなにごとかととても驚いていた。
そしてその知らせの内容を最初に聞いたのは、前の大王の皇后である忍坂姫(おしさかのひめ)だ。彼女は息子である穴穂大王が殺されたことを知り、余りの衝撃にその場で崩れ落ちてしまった。

そしてその後、大泊瀬皇子(おおはつせのおうじ)や他の兄弟達もその事実を知ることとなる。

大泊瀬皇子はその話しを聞くと、余りのことに思わず外に飛び出して行ってしまう。
そして外に出ると兄を失ったことに対し、怒りと悲しみを顕にした。

(穴穂の兄上が死ぬなんて、嘘だろ……だ、誰か、嘘だといってくれ!!)

大泊瀬皇子は自身の兄弟の中で、穴穂大王を一番慕っていた。彼は子供の頃にひどく問題児だった大泊瀬皇子を、いつも気にかけてくれていた。そしてそんな彼の遊び相手にも良くなっていた。


それから大泊瀬皇子は地面にへばり付くと、地面を何度も何度も叩きつける。余りに強く叩いていたので、手の表面の皮膚が少し破れて、血がにじみだしてきた。

そして彼は涙を流しながら、その場で声を張り上げて亡くなった兄の名を叫んだ。

「穴穂の兄上ーー!!」

(穴穂の兄上は眉輪(まよわ)に殺された……)

眉輪の父親の大草香皇子は、穴穂大王の指示で暗殺されてしまった。なので眉輪がその復讐で、穴穂大王を殺したくなる動機は分かる。

でもだからといって、大王である兄を殺した眉輪を、彼はとても許すことができない。
さらに今回は大王の暗殺だ。このまま見過ごす別けには到底いかない。

その瞬間に大泊瀬皇子は、ひどく恐ろしい感情を顕にする。

(眉輪め、お前は絶対に許さない! 捕まえて必ず俺が兄上の仇をとってやる!!)



そしてその翌日、眉輪が葛城円(かつらぎのつぶら)の元に行っていることが宮内に知らされる。
偶々穴穂大王の宮からの使いで、葛城円の元に行っていた者がそのことを知ったようだ。

葛城円の元でも、突然の穴穂大王の死と、その首謀者である眉輪が訪ねてきたことにより、ここの使用人達も皆大騒ぎになっているようだ。

とりあえず葛城円が皆を何とか落ち着かせ、眉輪には自分以外は誰も近付かせないように指示を出した。


大泊瀬皇子は眉輪が葛城円の元にいることを知るなり、すぐさま彼の2人の兄の部屋へと向かうことにした。

普段は大和の政りことには余り興味を示さない2人だが、今回は自分達の兄弟が殺されたのだ。

そんな2人も、さすがに今回は協力してくれるだろうと彼は考えた。

(2人の兄上と話しをして、一緒に眉輪の元に行き、穴穂の兄上の仇をとってやる)