雄朝津間大王(おあさづまのおおきみ)の突然の崩御により、大和内は慌てふためく。そして次の大王を誰にするかで家臣達は悩んでいた。

本来なら皇太子の木梨軽皇子(きなしのかるのおうじ)が即位する筈である。だが彼は同母の妹である軽大娘皇女(かるのおおいらつめ)と恋に落ちてしまい、そんな彼から皆心が離れ出している。

そして変わりに、第3皇子である穴穂皇子(あなほのおうじ)に心を寄せるようになる。

そのため、皇太子の木梨軽皇子ではなく、彼の弟の穴穂皇子を次の大王に立てるべきではと言う意見が徐々に増えていった。

また雄朝津間大王が体調を崩していた当時も、彼は大王の代理として動く事が多かった。それもあって彼の評価は一気に上がっていく。

無論、同じ皇子である大泊瀬皇子(おおはつせのおうじ)もそれなりの評価は受けていた。
だが彼はまだ若く、性格に傲慢さが少しかいまみられていた。

なので穴穂皇子を次の大王に推すのが妥当だろうと、家臣達は思うようになっていった。


一方その話しは、木梨軽皇子自身の耳にも入ってきていた。
彼も実の妹と恋が周りに知られてしまった時点で、どんな待遇に合うかそれなりの覚悟はしていた。

だが自分から家臣達の心が離れ、そして弟の穴穂皇子は、今の現状をどう思っているのだろうか。木梨軽皇子は日々そんな不安にかられていた。

「くそ、父上がこれ程早く亡くなるとは考えていなかった……そして恐らく、今は早急に次の大王を立てようと動いているはずだ。
だが今の現状で、自分を大王に推す者はまずいないだろう」

木梨軽皇子は妹との恋が発覚して以降、政り事に関わる事を止められている。いわば謹慎中の身だ。

「このままでは、穴穂が家臣達に推されて、自分を廃太子にするために動くかもしれない」

木梨軽皇子は、ここ最近ずっと謹慎中だったためか、そんな事を考えるようになっていた。この時代、兄弟間での皇位争いもそう珍しくはない。

「穴穂も、本心では大王につきたいと思ってるのではないか。ならば、こちらから動くしかない……」


木梨軽皇子はそう思いたつと、彼の腹心である物部の小前宿禰(おまえのすくね)を頼って、彼の元に行く事にした。

小前の住居は、皇子が馬を走らせて1時間程の所にある。

小前も突然木梨軽皇子がやって来たので、最初は非常に驚いた様子だった。だが彼の今の心境を察し、ひとまず彼を自身の家に招き入れる事にした。

そして木梨軽皇子は小前の元に身を寄せてから、急に兵と武器を集めだした。どうやら穴穂皇子と戦うつもりのようだ。

それに、物部は元々鉄器と兵器の製造・管理を主に管掌を行なっている一族でもある。

(ここまで来てしまったからには、さすがにもう引き返しは出来ない……)

木梨軽皇子が小前宿禰の元に身を寄せ、兵と武器を集めている話しは、直ぐさま穴穂皇子の元にも届く事となった。