大泊瀬皇子(おおはつせのおうじ)は、韓媛(からひめ)に突然そんなふうに言われて妙に照れていた。
そして彼は恥ずかしそうにして顔を赤らめる。

(まぁ、大泊瀬皇子が照れてるわ。これはちょっと意外ね……)

そんな彼を見て韓媛は少し可笑しくなった。あの能吐の前に現れた時の彼とは、何だか別人に見える。

「まぁ、とりあえず俺が聞きたかったのはそれだけだ。長居しても悪いので、俺はこれで失礼する」

大泊瀬皇子はそう言うと、立ち上がった。

「大泊瀬皇子、もうお帰りになられるのですね。では部屋の外までお見送りします」

そう言って韓媛も立ち上がり、一緒に部屋の外まで行った。

「では、俺はこのまま自分の宮に戻る事にする」

「はい、大泊瀬皇子も帰りの道中お気を付けてください」

韓媛は笑顔で彼にそう言った。

大泊瀬皇子は彼女のそんな表情を見ていると、とても癒される感じがする。
そしてそんな彼女の笑顔を見て、彼も嬉しさに動かされ、反射的に少し微笑んだ。

そして彼は「じゃあ、失礼する」と言って韓媛の元を後にした。

そしてそんな彼を、姿が見えなくなるまで彼女は見送った。


「大泊瀬皇子、本当に立派になったわ。今は確か16歳になってるのよね。これなら無事にどこかの姫を妃に貰えそう」

韓媛は思わずそんな事をふと考えてみた。

「でもそう言えば、その辺の話しはもう進めてるのかしら? 彼がどこかの姫の元に通っている話は、今まで噂でも全く聞いた事が無いわ」

まだ妃は娶っていないが、彼もどこかの娘の元に通ってても全然良い年頃になっている。

「今度皇子に会った時に聞いて見ようかしら? でも彼の場合、そんな話しをしたら逆に怒りそうな気もするわね」

韓媛は幼馴染みの彼が、そんな年齢になってる事に初めて気が付いた。彼が立派に成長して嬉しい反面。少し寂しさも感じる。

「まぁ、私も皇子も、いつかは誰かと一緒にならないといけない。もう2人ともそんな年になったのね」

そんな事をふと韓媛は考えながら、自分の部屋の中へと戻って行った。