(これが、この剣が見せる災いなのね……)

韓媛(からひめ)は誰かに言われた訳でもなく、そう確信した。そしてこの災いをこの剣で断ち切る事が出来るような気がしてきた。

「お願い、この災いごとを断ち切って!」

韓媛がそう強く思い、その光景の中で剣を振った。すると『プチッ』と何かの糸が切れたような感覚がした。

そして、その瞬間に彼女はハッと我に返った。

彼女は自分の部屋の中にいる。彼女の持っていた剣も、それまであった熱が徐々に無くなっていき、元の状態に戻った。

「こ、これが災いを断ち切るって事なの?」


とりあえず彼女は、その後何か変わった事が起きてないか気になり、再度(つぶら)の元に行ってみる事にした。

韓媛が円の元に向かっていると、前から葛城能吐(かつらぎののと)が現れた。彼を見た瞬間、彼女は少し身震いがした。

能吐は韓媛に会ったので、とりあえず挨拶だけする事にした。

「おや、誰かと思えば韓媛じゃないか。今回は本当にお父上の円が災難だったね。その後体調は大丈夫なのか」

それを聞いた韓媛は、また怒りが込み上げてきた。この男は本当に許せない。

「それは、あなたがお父様に毒を盛ったのが原因なのでしょう、能吐」

それを聞いた能吐は、とても驚いたように眼をみはった。そして何故この娘はその事を知っているのだと言いたげそうな表情をしている。

「韓媛、一体お前は何を言ってるんだ。じ、冗談じゃない。何故私がそんな事を」

彼のひどく驚いた表情を見て、やはり先程の光景は本当だったんだと韓媛は思った。

「冗談などではないわ! お父様のお酒に毒を入れたのでしょう。それにもし毒の事が知られたら、大泊瀬皇子(おおはつせのおうじ)に濡れ衣を着せようって魂胆までして」

能吐はそこまで言われて、驚きの余りその場で笑いだした。

「韓媛、何故お前がそんな事を知ってるのだ。酒に毒を入れた事だけならまだしも、大泊瀬皇子へ濡れ衣を着せようって魂胆まで知っているとは。だがその証拠がないと、私をどうする事も出来ないぞ」

それを聞いて、韓媛はハッとした。確かに能吐が実際にお酒に毒を入れた事が証明出来ないと、どうする事も出来ない。

「韓媛、お前も軽々しくそういう事を言うものではないぞ。お前の父親も今回命だけは助かったが、次回はどうなるか分からないからな」

韓媛は悔しさの余り、ぶるぶると体を震わせた。しかしふとある事を思い出した。

「でも、その毒は大和から手に入れた物なのでしょう。であれば、大和に確認したらあなたが毒を手に入れた事が分かるのではない?ただ大泊瀬皇子に濡れ衣を着せようって話しだから、そう簡単には証拠は見つからないかもしれないけど」

それを聞いた能吐は、それまでとは打ってかわって表情が急に変わった。

(俺がやり取りしていた大和の奴には、俺が毒を受け取った事を口止めさせている。だがそれも絶対にバレない保証はない。これは毒が見つかった時の最終手段だ)