ムスクの甘い香り。

視界は真っ暗……でも、布越しに伝わるのは間違いなく人の温かさ。


――ばくん。

心臓が大きく跳ねたと同時、頭が覚醒する。



な……なっ、怜悧くんがいる……!!

このふかふか加減……ここはベッドに違いない。


私、さっきまで課題やってなかったっけ?
やってたよね、大問5を解こうとしてたもん。


どうして一緒に寝て……、ううん、経緯なんてどうでもいい。

この部屋、酸素濃度が低すぎるんじゃないかって思う。
運動したわけでもないのに、はあはあ、呼吸は乱れていく一方。大きく吸って吐いてを繰り返すけど、そろそろ息ができないよ。


理由は距離が近すぎるってだけじゃない。



びっくりした反動で、飛び退きそうになったのに、私の体はびくともしない。

怜悧くんの片腕に……強く抱きしめられてるから。