翌日、私は、長女を部活動へと送り出すと、次女と主人に会社の人と買い物に行くと言って家を出た。

待ち合わせの駅へ向かうと、駅前のロータリーに社長の車が止まっている。

私が慌てて駆け寄ると、助手席の窓がウィーンと下がる。

「お待たせして申し訳ありません」

私は窓から社長に向けて頭を下げる。

「いや、平野さんは時間通りだよ。さ、乗って」

社長に促されて、私はぺこりとお辞儀をして助手席のドアを開けた。

「お邪魔します」

私は、おずおずと助手席に乗り込む。

「くくっ、どうした? なんかいつもの平野さんらしくないけど」

社長は、そう笑みをこぼしながらら静かに車を発進させる。

「いえ、だって、あの、私、こんな高級車に乗るの初めてで……」

我が家のミニバンとは、全然違うんだもん。

「くくっ、そんなこと……」

社長、車を走らせながら、楽しそうに笑う。

「今日は、俺のわがままで来てもらったんだから、敬語はなし。 社長って呼ぶのもなし」

えっ?

私が目を丸くすると、社長はちらりとこちらに視線を向けた。

「普通に名前で呼んで。社長って呼ばれると変に振り返る人とかいるから」

ああ!
それはあるかも。

「分かりました。じゃあ、今日は宮本さんって呼ばせていただきます」

私が言うと、社長はまた笑う。

「くくくっ、敬語! 全然抜けてないし。年だって二つしか違わないんだから、もっと普通にしゃべってよ」

あっ

「すみません」

でも、社長にタメ口って難しいよ。

私が困っていると、社長はまたちらりとこちらに視線を向けた。

「ま、まじめな平野さんには、難しいかな」

仕事中と違って、ずっと笑ってる社長はいつもより若く見える。

服装がスーツじゃなくてカジュアルなシャツにデニムだからかもしれない。


社長はそのまま郊外のアウトレットへと車を走らせる。

私たちは、あれでもないこれでもないと広い施設内を見て回り、年頃の女の子が気に入りそうなバッグを買った。