会社に着いた私たちは、それぞれの仕事を始める。
今まで、社長が出勤前にやっていた掃除を、社長が資料を散らかすのを横目で見ながら、行う。
社長がいない方が、掃除ははかどるんだけど。
そうして、掃除を終えた私が、総務に戻って他の仕事をしていると、社長から内線が入った。
『手が空いたら、来てくれ』
なんだろう?
私は、すぐに社長室に向かう。
「失礼します。
社長、何かございましたでしょうか?」
私が一礼して部屋に入ると、社長は引き出しから封筒を取り出した。
「3月分の給料、残り29万入ってる。やっぱり、多少の手持ちがないと不安だろ」
「そんなに!? いいんですか?」
確かに、どこでどんな出費があるか分かんない。
「八代がたかが30万を持ち逃げするとは思わないからな」
社長はそう言って、くくっと笑う。
「お心遣い、ありがとうございます」
私は、丁寧にお辞儀をして、両手でその封筒を受け取った。
すると、社長が机の上を人差し指でコンコンと鳴らした。
「それから、ここに八代のサインがいるから、書いてくれ」
そう言って、社長はさっき鳴らした人差し指で書類を指し示し、その上に愛用の万年筆を置いた。
「これは?」
私は、その書類を覗き込む。
「同居人の申請書類だ」
ああ! 今朝受け取ってたやつかぁ。
「はい、かしこまりました」
私は、スーツの胸ポケットから、自分のボールペンを取り出した。
まさか、新入社員が、社長愛用の万年筆を使うわけにはいかない。
書類にざっと目を走らせ、同居人氏名の欄に八代と書いた時、その下の世帯主との関係の欄に目が止まった。
えっ!? なんで?
私は、そのまま紗世と書くことができずに手を止めた。
「社長、これ、どういうことですか?」
そこには、『婚約者』と社長の字で記載されている。
「他にどう書けって言うんだよ? 社長と従業員? そんなこと書いた瞬間に、俺の人格が疑われるだろ。これが1番都合がいい肩書きなんだよ」
いや、都合がいいのは分からなくもないけど。
「いえ、でも、これじゃあ、虚偽記載ですよ? 嘘がばれて追い出されたら、どうするんですか!」
私は詰め寄るけれど、社長は全く意に介さない。
「八代が言わなきゃばれない」
そうだけど!
「だって、私、引越し費用が貯まったら、出て行きますよ?」
元々、月末のお給料日までのつもりだったんだけど。
「もう3月分の給料、受け取っただろ? だから、少なくとも3月は出て行くなよ」
まぁ、敷金礼金貯めないと、引越しなんてできないから、それくらいは必要かもしれない。
でも、なんで社長はそこまでして、私を助けてくれるんだろう?
「はぁ……
お世話になります」
私が戸惑いながらもそう答えると、社長は唇の端をニッと上げて笑みを浮かべる。
「じゃあ、頼んだよ。お掃除係の紗世さん」
なんだろう?この社長の微笑み。
嫌な予感しかしないんですけど!?
─── Fin. ───
レビュー
感想ノート
かんたん感想
楽しみにしてます。
お気軽に一言呟いてくださいね。
今まで、社長が出勤前にやっていた掃除を、社長が資料を散らかすのを横目で見ながら、行う。
社長がいない方が、掃除ははかどるんだけど。
そうして、掃除を終えた私が、総務に戻って他の仕事をしていると、社長から内線が入った。
『手が空いたら、来てくれ』
なんだろう?
私は、すぐに社長室に向かう。
「失礼します。
社長、何かございましたでしょうか?」
私が一礼して部屋に入ると、社長は引き出しから封筒を取り出した。
「3月分の給料、残り29万入ってる。やっぱり、多少の手持ちがないと不安だろ」
「そんなに!? いいんですか?」
確かに、どこでどんな出費があるか分かんない。
「八代がたかが30万を持ち逃げするとは思わないからな」
社長はそう言って、くくっと笑う。
「お心遣い、ありがとうございます」
私は、丁寧にお辞儀をして、両手でその封筒を受け取った。
すると、社長が机の上を人差し指でコンコンと鳴らした。
「それから、ここに八代のサインがいるから、書いてくれ」
そう言って、社長はさっき鳴らした人差し指で書類を指し示し、その上に愛用の万年筆を置いた。
「これは?」
私は、その書類を覗き込む。
「同居人の申請書類だ」
ああ! 今朝受け取ってたやつかぁ。
「はい、かしこまりました」
私は、スーツの胸ポケットから、自分のボールペンを取り出した。
まさか、新入社員が、社長愛用の万年筆を使うわけにはいかない。
書類にざっと目を走らせ、同居人氏名の欄に八代と書いた時、その下の世帯主との関係の欄に目が止まった。
えっ!? なんで?
私は、そのまま紗世と書くことができずに手を止めた。
「社長、これ、どういうことですか?」
そこには、『婚約者』と社長の字で記載されている。
「他にどう書けって言うんだよ? 社長と従業員? そんなこと書いた瞬間に、俺の人格が疑われるだろ。これが1番都合がいい肩書きなんだよ」
いや、都合がいいのは分からなくもないけど。
「いえ、でも、これじゃあ、虚偽記載ですよ? 嘘がばれて追い出されたら、どうするんですか!」
私は詰め寄るけれど、社長は全く意に介さない。
「八代が言わなきゃばれない」
そうだけど!
「だって、私、引越し費用が貯まったら、出て行きますよ?」
元々、月末のお給料日までのつもりだったんだけど。
「もう3月分の給料、受け取っただろ? だから、少なくとも3月は出て行くなよ」
まぁ、敷金礼金貯めないと、引越しなんてできないから、それくらいは必要かもしれない。
でも、なんで社長はそこまでして、私を助けてくれるんだろう?
「はぁ……
お世話になります」
私が戸惑いながらもそう答えると、社長は唇の端をニッと上げて笑みを浮かべる。
「じゃあ、頼んだよ。お掃除係の紗世さん」
なんだろう?この社長の微笑み。
嫌な予感しかしないんですけど!?
─── Fin. ───
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楽しみにしてます。
お気軽に一言呟いてくださいね。