「…オフィーリア。それが君の本当の名前なの?エラ」
「うん」
「そう。僕のエラはね、嘘をつく時に一瞬だけだけど左側を見るんだ。今見ていたでしょ?」
「…」
あの頃と何も変わらず美しく微笑むノアに表面上は笑顔だが冷や汗をかく。
まさか自分にそんな癖があったとは知らなかった。つまりノアに嘘がバレた可能性が高い。
「…嘘なんだね」
私の様子をしばらく黙って見つめた後ノアは有無を言わさない圧を笑顔で私にかけてきた。
これに関してはもう逃げ場はないようだ。
「…そうだよ。本当はクロエっていうの」
なので自分でも往生際が悪いと思ったが今度は違う名前を名乗った。
「…」
ノアが感情の読めない笑顔を私に向ける。
だが目が確実に笑っていないことだけはわかる。
目の前の馬車の扉が護衛によって開かれる。
すると私はその馬車にノアによって乱暴に押し入れられた。
「エラ。君の嘘にはもう騙されないよ。さっきも言ったけど僕は君を買ったんだ。君はもう僕のものだからね。それだけはちゃんと自覚して」
仄暗い笑みを浮かべてノアが馬車に後から入ってくる。
どこか歪んだ感情が表に出ている気がするノアを見て私は悟った。
多分ノアを騙すことなんてできないし、逃げられない、と。