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結論から言うとまず逃げられなかった。
ノアの手によって檻から出されてすぐにノアは私の腰に手を回して絶対に自分の身から離さないようにおそらく馬車の方へと歩き始めた。
さらにノアの周りは仮面を付けて素性を隠しているとはいえ王子様なので、まさに虫1匹たりとも逃がさないと言った数の護衛が配置されており、まるで逃げる隙がない。
事を大きくすることはもちろん仕事上望まれないことなので仕方なく私はノアについて行くことにした。
ノアはまだ私を愛してくれているのだろうか。
それとも黙って姿を消した、自分を騙していた私を愛していたが故に憎んでいるのだろうか。
可愛さ余って憎さ百倍というやつで。
とりあえずまずは私がノアの知っている貴族〝エラ〟ではないということを伝えることから始めよう。
ノアが愛した女ではない、と。
「…あの」
「…ん?」
「さっきオーナーが私の名前はないって言っていたけど本当はあるの」
私の腰に手を回して歩き続けるノアの顔を覗き込んでおずおずと声をかける。
まずは貴族の〝エラ〟との違いとしてノアに敬語を使わない。
「私の名前はオフィーリアっていうの」
そして全く似ても似つかない名前を名乗ってみた。
今の私は貴族をしていた〝エラ〟と見た目も随分違う。もしかしたらこの時点で他人の空にだと思ってくれるかもしれない。