「…」
最後に一目だけもうこんなイレギュラーがない限り出会わないであろう王子様をこの目に焼き付けておこう。
そう思い客席内のノアが座っていた場所に視線を向ける。
あれ?いない?
だがそこには彼の姿はもうなかった。
ああ、もう一度だけ最後にノアの姿を見たかったのだが残念だ。
「エラ」
「…っ」
舞台袖でノアが昔のように私の名前を呼ぶ。
あまりにも予想外の場所からいきなりノアに呼ばれたので、私はただただ驚いて固まった。
先程まで客席に座っていたはずなのにもうここまで移動してきたのか?
そもそもここは関係者のみが出入りを許されている場所であり、客であるノアはここへは入れないはずなのだが。
「どうです?近くで見ればますますその美しさが際立つでしょう。エラと名付けられたのですか?」
「…彼女には名前がないのですか?」
「ええ。彼女はうちの商品ですのでそのようなものはございません」
「…そうですか」
私の目の前でオークションのオーナーである中年の身なりのいい男とノアが私について話をしている。
私はそれをただ黙って見つめていた。