唐突な、謝罪の言葉。

それを真正面から受けた芙夏は「え?」と聞き返すが、雨麗は首を横に振っただけで、それ以上は何も言わなかった。



「……さて、わたしは仕事にもどるわ」



「あ、お嬢」



ぱっと。呼び止めた雪深は、振り返った雨麗に対して、なぜか言葉を詰まらせる。

それはどうやら反射的に呼び止めたからで、口にするのを躊躇っているようだった。



「あー……いや、ごめん……

最近小豆さん見ないから、どうなのかと思って」



「小豆? ああ、彼なら事務所よ。

少し前から、事務所に寝泊まりしながら『モルテ』を追ってるわ」



しばらく帰ってこないんじゃない?と。

まるで他人事な雨麗。専属を一時的にでも外されているせいで、今小豆さんの直属の主人は彼女の父親にあたる人物。──つまり。




「レイも会ってないの?」



「お互いにそんな暇があるなら仕事の一つでもこなして効率化してるわよ。

……文字と、電話のやり取りはするけれど、わたしもこの間一度会ったくらいだもの」



言って、なぜかそのまま黙り込む雨麗。

その"一度"に何かあったとわかるあからさまな素振りを見て、最近の雨麗は調子が悪いな、と思う。……いや、悪くはないのか。



「小豆さんと何かあった?」



「……いいえ。

その日は彼が誕生日だったから、すこし祝っただけよ」



「え、小豆さんの誕生日っていつ……!?」



知らないんだけど!?と。

目を見張る芙夏に、淡々と彼の誕生日だけを口にする雨麗。……その日、って、たしか。