正直、行き詰まっているのかもしれない。

結局昨日も、改めて告白できずに終わって。──ふと脳裏を過るのは、昨夜の記憶。



「……、」



胡粋が心配だからと、花火が終わって全員別荘に引き返す中、お嬢だけは海へ戻っていった。

胡粋はお嬢に告白してる。だからお嬢も、ふたりきりでも完全に安全だとは思ってないだろうけど。



俺がそこに割って入るのはどうなんだろうって、悶々と悩んで砂浜近くで足を止めていた。

胡粋とお嬢の月明かりに照らされたシルエットをぼんやりと眺めながら。



「……雨麗に用事あるなら行けばいいんじゃねえのか」



波の音と同じくらい心地良い声。

振り返らなくてもある程度特徴的なそれに振り返って「用事はないですよ」と笑ってみせた。



お嬢の横に並んでも、違和感がない人。

どちらも見劣りしないような、特別な人。




「憩さんこそ、お嬢に用事ですか?」



「……用事っつうほど大きいもんじゃねえよ」



野暮用だ、と。

遠巻きにふたつのシルエットを眺めた憩さんは、「ちょっと付き合え」と身を挺して歩き出した。



「、」



強引な人だな。別に良いけど。

っていうかお嬢に用事があるのに、向かうのは反対方向らしい。どうせ悪い人ではないから、なんでもいいやとそれについていく。



「憩さんって。……お嬢のこと好きですよね」



付き合えって言った割にはなにも口を開かない憩さんとの沈黙を埋めるように、話題を投げかける。

憩さんは「そう見えるならそうだろ」と他人任せな答えを放った。どう見たってお嬢のことを好きなのに、それについては心底どうでもいいって感じで。