些細な移動時間さえ、お嬢は無駄になんかしない。

俺らに伝言だったり指示を忘れることなくするし、俺らには理解できないような御陵の内面事情を小豆さんと真剣に話してることもある。



日によっては車の中でパソコンをカタカタと操作してることもあるし、とても忙しそうなのに。

普段の日常生活の俺らの前では、そんなそぶり見せなくて。



「はとり、明日の午前中空いてるなら少し話をしましょうか。

彼女のことで。……もう少し話しておきたいの」



どんなに小さなことでも、見逃さないように。

俺らと関わる時間を、惜しまないでいてくれる。



「わかった。早めのほうがいいか?」



「そうね、そんなに大した話ではないけど」



じりじりと。

背中を伝う焦燥感に、焦がされる。




「──あのさ、お嬢」



「……なあに?」



「いや……ごめん、なんでもない、かも」



なんで俺、こんなに焦ってんだか。

誰よりもお嬢に好きって言ってるし、お嬢のこと大好きな自信あるし、お嬢だって俺を大事に思ってくれてる。



なのに、なんで。

……なんで、こんなに余裕、ないんだろう。



「……そう。

もし何かあるなら、ちゃんと言ってちょうだい。今じゃなくてもいいから」



「うん……わかってる。ありがと」