「雪深」



ちゃんと名前で呼ばれて顔を上げればお嬢は、「出ないの?」と聞いてくる。

お嬢を傷つけたくないからと再開した女の子遊び。気が向いた時だけにしてるけど、さすがにお嬢の前で約束を取り付けようとは思わない。



「んー……いいや」



「そう。……遊ぶのも程々にしなさいね」



「……うん」



相手が女の子だってこと、お嬢はわかってる。

わかってて止めないのは、自分のためだって理解してるからなのか、俺と恋愛する気が微塵もないからなのか。……なんて。



考えたところで、どうにもなんないんだけど。




「レイちゃんレイちゃん」



芙夏が、お嬢の服を引く。

そうすれば彼女は「なに?」と優しげに問いかけて、それにふにゃっと笑った芙夏が、あのねと彼女の耳元で何かを囁いた。



「ええ。

……芙夏がそれで構わないなら」



「ふふ、ありがとー」



「……どういたしまして。

小豆、家に着いたらあなたは業務終わっていいから。それと、シュウ。夏休み後半分のジムに通ってもいい日程を纏めた書類、受け取った?」



「ああ、旅行から帰った時に渡された」



「それならよかった。

胡粋、この間言ってた予定のことだけど、」