彼女にしてはめずらしい、赤いピンヒール。

ヒールを履いているのは何度か目にしているけど、こんな主張の激しい真っ赤な靴を履いているのは初めて見た。



「元から手を組む話もある程度出ていたから、御陵の力を利用するのは構わないの。

……ただ、個人的にあなたたちを利用しようとしてるのが許せない」



「……お嬢」



「八王子に余計なこと言われても無視して。

あなたたちの飼い主は──わたしよ」



俺らだって。

今更別のご主人様なんてものを与えられても困る。俺らはお嬢だけの番犬で、お嬢のためだけにここにいるんだから。



「それではみなさま、お気をつけて」



玄関の前で恭しく頭を下げる執事さん。

俺らに「先乗ってて」と小豆さんがドアを開けた車に乗るよう促したお嬢は、執事さんに何か耳打ちした。




「小豆さん。

レイとあの八王子って男、仲悪いんですか?」



「いえ。仲は良好ですが……

例え親しい仲でも、自分が可愛がっている皆様のことを取られては、雨麗様も黙っていられなかったんでしょう」



そういうお方ですから、と小豆さんは笑って。

歩み寄ってきたお嬢に「どうぞ」と手を差し伸べ、彼女が車に乗り込んでから運転席に回る。



「それでは出発いたしますね」



シートにもたれかかると、ようやく肩に入っていた変な力が抜けた。

それにしても八王子、一体何者なんだか。八王子って名前のつく有名な企業があれば、すぐにでもわかるはずなのに。



「、」



ふう、と息を吐いて、さらにシートに深く身体を沈めた時。

ポケットの中で震えたスマホ。表示されるのはケータイの番号で、相手の名前は出ないから、たぶん名前も覚えてない女の子。