……うん?

首を噛まれた……?



「そしたら、こーちゃんが『もっと痛くて怖いことしたいの?』って怒るから……」



……ああ、そういう、こと。

そこでようやく彼女の発言の意味に気づいたわたしは、心の中でため息をついた。



よくよく考えれば、まだこんなに幼くて純粋な女の子が、色欲に塗れた男女の事情なんか知っているわけがない。

まあわたしは色々知りすぎていたせいで、その頃にはある程度理解していたけれど。



どうやらその首を噛まれた一件について、彼女は襲われたと勘違いしているらしい。

──その証拠に。



「菓ちゃん、キスとかしたことある?」



「へ、っ……!?」




キス、と単語を出しただけで、彼女は真っ赤になってしまった。

何がともあれ、実際に襲われたわけじゃないようで安心する。



頼まれたわけじゃないけど、このあと彼はわたしのところへ彼女を引き離してほしいと言ってくるだろうし。

とても純粋なその恋心を、傷つけるのは申し訳ないけれど。



「な、無い……です」



「ふふ、そっか。

でも胡粋……好きな子には『好き』って伝える前にキスしちゃうくらい、積極的よ?」



「え……?」



「ごめんね、菓ちゃん。

胡粋はもう──わたしのもの、なの」



ゆったりと、口角を上げて。

口にしてみせたそれに、彼女が目を見張った。