「勝手なことしないでくれるかしら」



グッと引かれた、八王子のネクタイ。

顔を近づけたお嬢は、それでもなお笑みを崩さない八王子に「聞いてる?」と穏やかな口調で告げた。……が、視線はやけに冷たい。



「わたしはこの子たちの外出許可を出してない」



「へえ。許可しないと外に出れないの?」



「個人的な用事は自由にさせてるわ。

"わたしの護衛"としては許可してないって言ってるの」



「はは、笑えない冗談だよね。

……護衛なんて、微塵も思ってないくせに」



バチバチとふたりの間に散る火花。

前回はじめて八王子と会った時は、もっと仲が良さそうに見えたのに。もしかして本当は仲悪いのか?と、口を挟めずにその様子を見守る。




「次にわたしの許可なく呼び出したら……

お父様の意思に関係なく、あなたとは縁を切るわ」



「そうなれば困るのは君の方だよね?」



「いいえ。手ならいくらでもある。

……調子に乗ってたら本当に痛い目みるわよ」



パッと、お嬢が手を離して。

それから「帰るわよ」と俺らに向き直る。八王子は八王子でこれを予想していたみたいにどうでも良さげだし、話とやらももう必要ないらしい。



「……怒ってる?」



じゃーねと八王子にひらひら手を振られ。

執事さんに玄関まで見送ってもらう間の長い廊下でお嬢に尋ねたら、彼女は首を横に振った。誰に、とはあえて聞かなかったけど、どうやら怒っている訳ではないらしい。



「ただ気に入らないだけよ。

あの男の、なんでも利用するようなやり方が」