夏だものね、と。
いちばん頭に残った選択肢を伝えると、電話の向こうで『あんみつだと』と柊季がみんなに報告しているのが聞こえる。何やらブーイングが起きてるけど。
『俺ら真剣に考えたのに、
その場で決めたはとりのお土産になるとか……』
『……雨麗がそう言ったんだから仕方ないだろ』
『あームカつく……
あんみつさっさと買いに行くよ』
電話越しに聞こえる声に、楽しそうだなと思わず口角を上げる。
もどってきた小豆が、音を立てないように置いてくれた透明のグラス。氷が崩れて、夏を感じさせるようにカランと涼しげな音が鳴った。
「せっかく五人で出掛けてるんだから、楽しんでらっしゃいね」
『楽しむどころか女の視線集めてそれどころじゃねーよ。
ったく……ことわってもキリねーし、』
切実な声で「早く帰りたい」と言う柊季。
それでも結局は、みんなに付き合ってあげるんだろうと思うと頬が緩んだ。楽しんできて、ともう一度告げれば彼は不服そうにしながらも「ん」と返事してくれて。
「幸せそうですね、雨麗様」
「……しあわせよ」
電話を終えてグラスに口をつければ、喉を通るのはジャスミンの香り。
隅に腰掛けた小豆が、わたしのジャスミンティーとは別の色の飲み物が入ったグラスに口をつけて、首をかしげる。
「私はときどきあなたの事が分からなくなりますよ、雨麗様」
「あら、まだまだ未熟なんじゃない?」
「五家の皆様に、どうしてそれほどまでの愛情を注げるのか、不思議で仕方ないのですよ。
……裏切ることを、前提にされているのに」