車の中で、部屋に行ってもいい?と耳打ちされた時はすこし驚いた。

ギュッとわたしを抱き締める腕は案外力強くて。



何度も言うもくちづけを交わせば、その隙間で漏れる吐息。

……ほんと、わたし、何やってるんだろう。



「ん、」



さらさらと手触りのいい髪を撫でていたら、ふあ、とねむそうな瞳をわたしに向ける芙夏。

起こしちゃった?と小さく聞いてみたら、返ってきたのは返事ではなく。甘えるみたいにウエストにぎゅうっと抱きつかれて、ぽんぽんと芙夏をあやす。



「怖い夢でも見た?」



「ううん、」



眠っていたせいか、少し低く掠れた声。

わたしの腹部に顔をうずめてくる芙夏は言葉を発さなくて、普段ムードメーカーな彼とは違う印象をわたしに与える。




「レイちゃん、ぼくたちのこと、好き?」



「……ええ、だいすきよ。

大事に思ってるに決まってるじゃない」



「うん……そう、だよね。

レイちゃんが八王子さんと話してたとき、なんか……すごく、不安になっちゃった、」



回された腕が、震えてる。

双眸が不安げに揺れて、それだけで芙夏がどれだけわたしと自分たちの関係に重さを置いてるのか、言われるまでもなかった。



「言ったでしょう、わたしはあなた達の飼い主だって。

……棄てたりなんて、絶対しないわ」



「うん……」



キスしてもいい?と。

この場にそぐわないことを伏し目がちに尋ねてくる彼に頷くと、芙夏がわたしの頬に触れる。湿った吐息が、混ざるように重なった。