あからさまにいつもと違う様子が引っかかって、まぶたを少しだけ持ち上げる。

けれど抱き寄せられているせいで顔を見は見えなくて、代わりに手だけで探った彼の指に、自分の指を絡めた。



「何もねえよ。何があるってんだ」



「……あなたは本当に嘘が下手ね」



「うるせえ、さっさと寝ろクソガキ」



「……口悪い」



これでも元あなたの主人なんだけど、と。

気にも留めないようなことを思いながら目を閉じると、その腕の中で彼の体温だけを感じて眠る。



夢か現実か分からなくなりそうな、境界線で。

何とかまだ、意識を保っていられるうちに。ゆるくくちびるに落とされたキスが、憩らしく無くて、印象的だった。




思い返せばこの前から、憩は様子がおかしかった。

そしてこの日を境に、わたしたちはどんどん距離を開いてしまって。……あの日、彼と、別れた。



彼が今更、御陵の跡を継ぐのかと聞いてきた理由は、わたしにもわからない。

けれど一つ言える事は。……あの日の返事が、少なからずわたしたちの関係を変えてしまったということで。



「いつも……

大事なことは、言ってくれないんだから」



そう、ひとり独白を零しながら。

今はすぐ隣ですやすやと眠っている芙夏の髪を、そっと撫でる。



可愛げのある瞳に危うげな大人の色気を滲ませ、いつもの甘くて高めの声も、ふたりで秘密を共有すれば、すこし低くなる。

"男"を意識させてくるところは、いつもの甘えたな幼さとはかなり違っていた。レイちゃん、と呼ばれて、その纏う雰囲気に、ぞくりとした。



組の仕事をした時、いちばん機転が利くのは案外芙夏かもしれない。

思い返せば空気を扱うのは手馴れたもので、その可愛らしい容姿とは裏腹に、芯を持って何かに徹することが出来る。



そしてついさっきまでのように。

わたしを僅かながらも動揺させるほどの変わり様は、相手との交渉術にはとても向いているだろう……と、再度幼くなった寝顔を見つめる。