小学生の頃の俺は、一体なにをしてたっけ。

たぶん平均的な、何ら変わり無い平凡な小学生だったと思う。いや顔だけは今と変わらず平凡じゃなかったかも、しんねえけど。



「あいつは教え込まれた仕事を小学生とは思えないほど的確に(こな)して、御陵の裏事情も知った。

仲が悪かった五家の、お前らの両親とも直接話をして、あいつが、確実に御陵五家を自分の傘下につけた」



だから、と。

憩さんがわずかに伏せていた瞼を持ち上げた。



「御陵も、御陵五家も。

表向きには旦那様の指示で動いてることになってるが。実際権力を握ってるのも指示してるのも雨麗で、誰も雨麗には逆らわない」



「……御陵の、女王、」



「巷では本当に女王って呼ばれてるらしいな。

表に一切顔を出さない御陵の奥様が女王だって説もあるけど、本当の女王は、あいつのことだ」



こんな時に限って。

優しく俺の名前を呼ぶお嬢の姿ばかり浮かぶ。




「油断しない方が良いぞ。

……気づいたら全部あいつの手の中だ」



「、」



「だから。

……いっそ嫌われた方がマシな可能性もある」



いくら雨麗でも、嫌いってだけで誰かを殺したりしない。

そう言うこの人は。──どんな思いで、お嬢のことを口に出してるのか、さっぱりわからない。



「それでも……好きですよね?」



確かめるように、問いかけた俺に。

すぐそこのスーパーの照明を借りるように背に光を浴びた彼が振り返る。──ああ、やっぱり。



「好きでもねえ女のこと、

何年もかけて口説いたりするかよ」