感情、底なし……?

どういうことだ、とますます意味がわからなくて膨れ上がる疑問。この人と話すのは、たぶんどれだけ簡単なことを言ってても、難しい。



「あいつの護身術とか、

そのあたりの身体使う稽古見たことあるか?」



「え……無い、です。

なんか前に、自分を襲うところだった男を三人、返り討ちにしたっていうのは知ってますけど、」



「なら今度見てみろ。

……あいつ、もう稽古する必要なんかねえぐらい、強いから」



まだやってるけどな、と零す憩さん。

そんな細かいことまで知ってるんですかって尋ねたら、「まー色々な」って返された。それにすら、俺とお嬢とは違う距離を感じる。



「ああいう家に生まれた以上、避けられない運命なんだろうけど。

……正直ベテランだろうがプロだろうが、腕の良い殺し屋より、あいつの方が上手く的確に、しかも早くターゲット殺せるぞ」



生々しい家柄の話に、ごくりと喉が鳴った。

わかってたことだ。俺の家もそうなんだから。極道に生まれた以上は、目を背けたままじゃいられないような、そんな真実が、裏にはある。




「なんで御陵が、

御陵五家を自由に動かせるか知ってるか?」



「……傘下だから、じゃないんですか」



「それもあるけどな。

正直数年前まで御陵と五家は凄まじく仲が悪かった。……まあ一番の理由は、今もまだ御陵のトップに立ってるあの人の方針に五家がついていけなかったからだ」



「なら、どうして今は……」



「あいつが御陵と五家を変えたからだよ」



聞けば聞くほど、知らない話が出てくる。

御陵と御陵五家の仲が悪かったことなんか、俺は知らない。……ううん、たぶん、あいつらも。



「まだあいつが小学生の時。

一人前に自分の感情も発達してねえようなガキだったあいつが。……御陵での、実質的な指導権を、後継者育成として任されたからだ」