あいつがまだ、生きて、俺の隣で笑ってた頃。

それなりに、愛情は注いでいるつもりだった。周りからは溺愛していると言われていたし、些細なことに気を配って幸せにしているつもりだった。



それでも。

雨麗と小豆さんの関係を見ていたら、そんなものちっぽけな自己満足でしかなかったんだと気づく。



それほどに、ふたりの愛情は深すぎる。

お互いに愛していながら、最善策をとって、苦しい道を歩もうとしているなんて、普通じゃ考えられない。



「……、」



静かに本邸を出れば、別邸は二箇所から明かりが漏れていた。

片方は雪深の部屋、片方はリビングの窓。もうすぐ深夜2時だが、確実に雪深を含めてふたりは起きているらしい。



リビングに誰かいるなら、顔を合わさず部屋にもどる方法はない。

小さく息をついて、鍵のかかっていない別邸の扉を開く。まじで、プライバシーもセキュリティもあったもんじゃない。



まあ、"万が一"なんてものがねえのをわかってるから、こういう対応なんだけどな。




「あれ、はりーちゃんいなかったんだ?」



小さな深呼吸をしてからリビングの扉を引けば、ソファに座っていたのは芙夏と柊季だった。

この時間に起きてんのが珍しいふたりだな。



「ああ、雨麗のところ行ってたからな」



「はりーちゃん、何気にちゃっかりしてるよねー」



いつも通りの芙夏の声を、いつも通りの反応で誤魔化した。

部屋にもどる気だったが芙夏に促されて、いつもは雪深と胡粋が使っているソファに腰を下ろす。



「どうしたんだ、こんな時間にふたりで」



たまに一緒に出掛けるくらいには仲が良いのを知っているが、いまさら他愛のない世間話するような関係でもない。

直球な俺の問いに、「ぼくのお兄ちゃんのことー」と、やけに明るい芙夏の返し。