ゆらりと、淡く揺らめく雨麗の瞳。

水面が波打つような薄い輝きが、以前あいつと一緒に行ったアクアリウムを彷彿とさせた。



「わたしは……わたしは、ね。

御陵の娘じゃなきゃ、生きていけないの」



──わかってたことだ。

たぶん雨麗は、御陵の名前と共に、生き途絶えてしまうほど。もはや御陵のお嬢としての自分以上の価値を見出せずにいる。



「例えばこの先、社会的に不適合な理由で、御陵が解散するようなことになったとして。

……それでもきっとわたしは、最後まで御陵の人間なの」



「………」



「お父様でもなく、お母様でもなく。

わたしが、御陵の、最後の人間になる」



それを聞いた途端に、はっとする。

だから、小豆さんは。そこに長らく芽生えた恋情よりも、御陵雨麗に仕えることで、忠誠を誓っているのか。それが雨麗にとっての、永遠だと知っていて。




雨麗はこの先も、小豆さんに自分の専属使用人という関係を望む。

そして小豆さんも、雨麗だけを自分の主人として、生きていく。



初めから、ずっと、そうだった。

俺らがここに来た時は、もうとっくに、その関係性は出来上がっていた。



端からふたりは、両想いだ。

本来なら選ぶべき"恋人"の選択肢を捨て、"主従関係"として永遠に生きることを決めた。



それならきっと、これ以上の愛情なんてどこにもない。

雨麗と小豆さんが100%の確率で永遠に寄り添える関係は、この一つだけだから。



「ごめんなさいね、あなたの望む答えじゃなくて」



「……いや、」



「でもこれが、わたしの答えよ。

普通の16歳の少女になれたとしたら、わたしはきっと数日ももたずに息絶えてしまうの」