「雛乃さんのところに泊まるって嘘ついて、

ふたりで密会でもしてたのか?」



「……やましいことがなくとも、密会?」



「小豆さん、未遂どころじゃねえからな」



彼女を下から見上げつつ、今日の会話を思い出す。

ついさっきまであったはずの少し艶やかな空気は消えて、俺の髪を慣れた手つきで撫でながら、仕事のファイルに目を通している雨麗。



「ただ純粋に……心地いいのよ、今の関係。

熱くも冷たくもないぬるま湯に浸かってられる状況が、ひどく心地いいの」



「……それは、小豆さんとの関係を否定しないってことでいいんだな」



小豆さんの精神的な部分はさておき、ふたりの間にある男女関係に、雨麗はかなり甘えている。

俺らには一切許さないその肌を、彼には惜しみなく晒しているのが何よりの証拠だ。




「……なんの意味も成さねえこと、聞くけど」



「あら、めずらしい」



「御陵なんて組織が、なかったとして」



雨麗は、極道の娘なんてものに縛られないで。

それこそごく普通の一般家庭に生まれて、両親との関係も、良好で。そんな"普通"が、雨麗にあったとしたら。



「小豆さんとも当たり前に、

そばにいられる関係だったら、どうしてた?」



ただただ、ふたりが。

家にも関係にも囚われない関係ならよかったのに、と。そう思うのは、俺とて天祥の家に生まれているからだ。



「……悪いけれど、」