「で、そのもの好きはどこのどいつだよ」

「会社の人?」

興味津々とばかりに矢継ぎ早に質問が飛ぶ。私はわざとらしく咳払いをひとつ、姿勢を正して二人を見ると静かに口を開いた。

「幼なじみの潤くんとお付き合い始めたの」

「わあ、幼なじみとか、素敵な響き!」

姫乃さんがキラキラとした目で黄色い歓声を上げ、兄は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。

「……マジで?」

「樹くん、知ってる人?」

「地元で有名な老舗旅館の御曹司様だよ」

「お、御曹司~?」

兄の説明に姫乃さんは両手で口を覆い感嘆のため息を落とした。確かに”御曹司”なんて響き、そうそう耳にするものじゃない。

「なぎさが相手でいいのかよ」

「失礼ね。めちゃくちゃ私のこと好きみたいよ」

「ありえないだろ」

「なぎさちゃん可愛いもん、わかる!」

「姫乃の可愛さには負けるだろ」

「それは私もそう思うよ。姫乃さんの可愛さには負ける」

それぞれが好き勝手言い、姫乃さんは顔を真っ赤にして恥ずかしがった。

そういう女性らしく可愛らしいところ、私にはない。本当に姫乃さんの仕草を見習いたい。兄はそれを見て冷静な顔をしているものの、内心デレデレなのが妹の私にはひしひしと伝わってくる。

愛されているな、姫乃さん。