ほら、囚われてるのは私だけ。

何がって、いつまでもあの日のキスが忘れられないでいる。ロンドンのザ・シャードで交わした潤くんとのキス。今でも思い出せそうなほどリアルに覚えているあの感覚。

「何が待ってて、だよ。いつまで待つんだよ。もう待ちくたびれたっつーの!」

結婚破棄されて以来特定の彼氏ができていない私はまわりには驚かれる一方だ。

だって仕方ないじゃない、潤くんが待っててって言うから。そんな言葉に惑わされて今までぼんやり過ごしてきただけ。そう、私は魔法にでもかけられたかのように、ただただ潤くんを待っていた。なのにこのざまだ。

「あーむかつくっ!」

「はいはい、別にお母さんは結婚をせかしたりはしてませんよ」

私がイライラとしてるものだから、母は“お見合いでも”と勧めた自分の言葉に私が怒っているとでも思ったのだろう。大きなため息をついたかと思うとさっさと話題を変えた。

「おばあちゃんちから野菜たくさんもらったから、お兄ちゃんのとこにお裾分けしてきて。どうせ暇でしょ?」

「……はいはい、わかりましたよー。ついでにレンくんと遊んでくるかな」

私は大げさにため息をつきながら、渋々重い腰をあげた。