「…大丈夫。どの道を選んでも、私はあなたの味方よ。だから、じっくり考えて、答えを見つけ出して。…この綺麗な家で」

理央が頷く。彩響も一緒に頷いて、ぎゅっと親友をハグしてあげた。久しぶりに感じるその体温が悲しくて、でも嬉しくて、二人はしばらく離れずにいた。



目を覚ますと、綺麗な窓の向こうから気持ちいい日差しが差し込む。ぐだぐだせずさっさとベッドから身を起こし、彩響は外出の準備を始めた。一番お気に入りの洋服を選んで、しっかり化粧もして、鏡の前に立つ。お気に入りのリップまで塗ると、鏡の中にはとても素敵な女性が映っていた。彩響は深呼吸を数回して、自分のスマホを出し、どこかへ電話をかけた。しばらくして、相手がとても明るい声で電話に出た。


「峯野?久しぶり!」

「中島くん、久しぶり。元気?」

「俺はもちろん元気してたよ。いきなりどうした、お前から電話くるとは珍しいな」


中島くんは大学の同期で、今は大手新聞社で働いている。もう彼も入社して数年経っていて、最近は頻繁に彼の名前を新聞で目にしている。元々人のよかった中島くんは、彩響の突然の連絡にも普通に接してくれた。彩響は早速話をを切り出した。


「突然連絡してごめん。あなたに知らせたいネタがあったの」

「ほお?わざわざ俺に連絡までして?一体どんなネタなんだ?ジャーナリストの血が騒ぐぜ」

中島くんがすぐ興味を示す。彩響は少し深呼吸して、すぐ話を続けた。


「中島くん、『アンブロック出版社』は知ってる?そこの編集長である『黒川浩史』のことよ」

「もちろん知ってるよ。国内でトップレベルに入るくらいの大手出版社だろ?そこの編集長がどうした?」

「その人が、私に言ったの。私の原稿を本にしたかったら、自分とセックスしなさいって」

「マジかよ?!これはスクープだぞ!なんか証拠は持ってるのか?」


中島くんの興奮した声が聞こえる。そして同時に何かを急いでタイピングする音も聞こえた。おそらくこのネタを早速記事にしているのだろう。


「その一部始終を録音したデータがあるの。あなたに送るわ」

「あの編集長に関する噂は、結構昔からあったんだよ。大体ターゲットは世間知らずの新人女性作家なんだろうな。…にしても、よく録音できたな。どうやったんだ?」

「癖よ、癖。この仕事では、人にインタビューする時録音するのが基本だから」