「ううん、まさかこんな出るとは思わなかったよ…」

「私もはじめはそうだったよ。ほら、次は水回り確認しましょう」


予想通り、シンク台の排水口はもう生ゴミでいっぱいで、コバエがぶんぶん音を立てながら飛んでいた。それを見ると、今まで理央が旦那とのことでどれだけ周りが見えてなかったのか、心が痛いほど実感できる。以前ここへ来たときはここまでではなかったのに…。
彩響はわざと何事もないようにそれを全部ビニール袋に突っ込んだ。それを見て隣で気まずく立っていた理央が言い出す。


「ごめん、そんなことまで…」

「謝らないで。ほら、さっさと体を動かして!ここは私がやるから、あなたは冷蔵庫の中と周り確認して。絶対賞味期限切れのやついっぱい出てくるから」


話が長くなると悲しくなりそうで、彩響はあえて明るい声で理央の背中を押した。理央ももうそれ以上はなにも言わず、指示された通り冷蔵庫の中身を確認する。食べ残しのパンとか、いつ貰ったのかも覚えていない餅など、大量の生ゴミが出てくる。理央は呆れを通り越して笑ってしまった。

「なんか、ここまで来たら自分自身に呆れてくるよ。すごい生活していたんだね、私…」

「私もそうだったよ。でも、成に会って、やっと気づいたんだ。こんな生き方じゃ駄目だと。そしてあなたも私のようになってほしくなかったから、やってきたよ」


いつか、成が言った言葉を思い出す。彩響も最初はただ不愉快に思っただけだった。しかし、もう彼の言葉を心から信頼しているし、彼の言葉が真実だと分かる。
掃除をすると、自分の問題が解決する。周りをよく見るようになり、徐々に改善する。それはやがて未来につながる。そう、これは理央の未来を変える。掃除は、人々の未来を変えられるんだ。


「ーこの大掃除のクライマックス、なんだと思う?」

「クライマックス?」

リビングへ戻ったあと、彩響が質問する。もちろん理央はなにも分かっていない。疑問に思う親友の質問に、彩響は意味深な笑顔を見せた。

「まあ、それはあとのお楽しみ。とりあえず、頑張ろう!」