理央が説明する。離婚届を郵便で送るとは、向こうはもう本気らしい。彩響は敢えてそこには触れず、周りに視線を移した。

真昼のはずなのに、とにかくここは暗い。彩響はじっくりと家中を見回した。あっちこっち溜まっているゴミや、いつ拭いたのかもしれないほど汚れたテーブルなど、どこを見てもここは汚い。そう、この空間はここに住んでいる理央の気持ちを反映していた。彩響はパッと振り向き、自分が持ってきた袋を理央に渡した。うっかりそれを受け取った理央が中身を確認して聞いた。


「えーと、これは…雑巾?掃除用のブラシ?」

「そう、買ってきたの。今から掃除するよ、理央」

「掃除?ここを?」

「そう。今から二人で掃除しよう。私も手伝うから」


理央が袋と彩響の顔を交代に見る。まだ状況が把握できてない様子だ。彩響がまず自分から雑巾を一つ取り出した。


「この家は、今あなたの心を映しているよう。だからここを綺麗に磨くの」

「はい?なに言ってるの、今はそんなことよりあいつを探しに行かないと…!」

「どこに行くの?あの浮気相手のところへ駆けつけてバーサスで戦うつもり?」


彩響の言葉に理央の動きが一瞬止まる。どうやら図星だったらしい。彩響は彼女の肩を握り、力強く言い続けた。


「今あなたに必要なのはあの浮気相手と戦うことじゃない。あなたに必要なのは、自分自身の状況を認めて、これからどうするかはっきり決めることだよ。だから一緒に掃除しよう。そうすると、心の整理ができる」

「心の、整理?」

「そう。大丈夫、今行かなくても、あんたの旦那も浮気相手もどこにも逃げない。長年の友情を想って、ここは私に付き合って。お願い」


彩響の言葉に理央はしばらく黙って、溜め息をつき、結局コートを脱いだ。顔は半分あきらめていたけど、彩響は構わず指示を出し始めた。


「まずは、どう見てもゴミだと分かるものから処分しましょう。この食べ残しのコンビニ弁当とか」

「いや、まだ食べられる…」

「お腹壊すから。さあさあ、動いて!早く捨てましょう!」


彩響の指示通り、理央が渋々動き出す。二人でリビングに散らかっていたゴミを集めるだけてすぐ50Lのゴミ袋がパンパンになる。それをまず外に出し、彩響がまた中へ戻ってきた。理央はゴミの量を見てかなりショックを受けた様子だった。


「こんなゴミ溜めていたって、分かってた?」