「それもデータのサイズと違くて確認したから、大丈夫。ちゃんと今週中に届くよ。あ、もし向こうの業者さんで何か問題がない限りね」

佐藤くんは最初驚いて、そして感動した顔で彩響の手ギュッと握る。少し大袈裟なぐらいの態度で、涙までこらえながら彼が言った。


「主任…マジ尊敬します…主任は最高っす!!」

「いや…次からはちゃんと見てね。私もよくやったミスだから体が覚えているだけ」

「本当主任って優秀ですよね。いつになったら俺も主任のようになるんすかね…」

「佐藤くん、もういい加減一人でもこれくらいはできるようにしないと。いつまでも私があなたの後ろについているわけじゃないから」

「へへ、マジ主任のこと頼りにしてるんで…本当感謝っす!」


佐藤くんは彩響の言葉を特に気にせず、いつものように笑って流す。そう、佐藤くんは唯一この会社で彩響の心の頼りになってくれた人だけど、だからと言って彼のために自分の人生を諦めるわけにはいかない。


「佐藤くん、今日私午後から抜けるから。あとはよろしく。それで明日も来ない予定」

「え?どうしたんですか?珍しいですね」

「事情があって。とりあえず、席へ戻ってください」

(そして、あともう少ししたらもうここには来ないと思うから)

心の声までは言わず、彩響は佐藤くんを自分の席へ戻した。そして予告した通り、13時になった瞬間オフィスをそのまま出て、エレベータに乗った。

向かったのは家の最寄り駅からもう少し行くと着く駅。電車から降り、スーパーで軽い買い物をして、彩響はどこかへ歩き出した。約15分くらい歩くと、目の前に少し古いアパートが見えた。階段を登りある部屋のチャイムを押すと、中から聞き慣れた声が聞こえた。

「どちら様ですか?」

「理央、私だよ」

「彩響?」


声を確認した理央が早速玄関のドアを開ける。予想しなかった訪問に驚いたのか、理央が目を丸くしてこっちを見た。


「どうしたの、会社は?」

「休み使った」

「そう、まあとりあえず入って」

「どこに行こうとしてたの?」

理央はどこかに出かけようとしていたのか、コートを羽織っていた。彩響の質問に理央は答えず、長い溜息をつく。中へ入り、リビングのテーブルの上に置いてあった書類が目に入った。それを見て彩響は理央がどこに行こうとしているのか、すぐ分かった。

「…昨日、郵便で送られたよ」