顔をじっと見ていた彩響がその手を取らず、そのままベンチから立ち上がった。そして姿勢を整えで、口を開けた。
「…石井さん、今日は誘ってくれてありがとうございました。でも、これ以上は会うことないと思います」
相手は彩響の発言に最初ちょっと驚いて、しかしすぐ落ち着いて返事をした。
「やっぱり、ナンパしてくる人とか信用できませんか?」
「いいえ、そういう問題じゃないです。石井さんはすごくいい人だと思います。でも、まだ私には時間が必要なんだと気づきました」
成が家を出て数ヶ月。ずっとこの胸の奥の虚しさをなんとかしたくて、ずっと苦しんできた。仕事にも没頭したし、友達にも会ったり、ずっと避けてきた電話に出たり。それでも結局は駄目で、男の人に会うと少しは解決できると思った。成がそうしてくれたように、誰かが私を励ましてくれるとこの苦しみから開放されるのではないかと、そう思って今日もここに来た。
「私、ずっと頼っていた人と会えなくなって、すごく寂しくなって、男でも作ればちょっとは楽になるかと思いました。だから今日も来たんです」
「なら、その人に会いに行かないんですか?」
「違うんです。今日やっと気付きました。これは、結局自分の問題です。自分の心の整理がつかない限り、いくら良い人にあっても、この苦しさからは開放できないと思います」
成にもう一回会えば、この心の隙間を埋められるんだろうか。
成にもう一回会って、成に応援して貰ったら、もう一回前に進む勇気が出るんだろうか。
ーいや、それは違う。
成に会えて、成に勇気づけられ、成が導いてくれたけど、結局決めるのは私だったんだ。
成がそばにいてくれたら、すごく心強いと思うけど、根本的な問題は解決しない。
「…よくわかりませんけど、彩響さんは今彼氏を作る余裕がないんですよね?」
石井さんが質問する。彩響が恐る恐る答えた。
「そういう…ことだと言っておきます」
「なら、大丈夫です。人間誰しも悩みの一つや二つくらい胸に持っているでしょう。また余裕ができたら、連絡してください。あ、もちろんその方とうまくいくことになっても、全然大丈夫です。…では、気をつけてお帰りください」
そう言って、石井さんはそのまま向こうへ向かう。その背中が見えなくなるまでずっと立っていた彩響は、長い溜息をつき、またベンチに座った。誰もいない静かな夜の公園は、頭を冷やすにはちょうどいい場所だった。
(いい人だったね、あの人…)
まだ残っていたペットボトルの水を一口のみ、深呼吸をする。冷たい空気が頬を撫でるこの瞬間、彩響は自分の胸に手を当て、心臓の鼓動に耳をすました。
(結局、決めるのは自分なのだ)
自分がこれからどう生きていきたいのか、それは自分で決めなきゃいけない。
成に会いたい。すごく会いたい。またその太陽のような笑顔に甘えたい。
ーでも、この悩みに答えを出せない限り、成には会えない。
「…石井さん、今日は誘ってくれてありがとうございました。でも、これ以上は会うことないと思います」
相手は彩響の発言に最初ちょっと驚いて、しかしすぐ落ち着いて返事をした。
「やっぱり、ナンパしてくる人とか信用できませんか?」
「いいえ、そういう問題じゃないです。石井さんはすごくいい人だと思います。でも、まだ私には時間が必要なんだと気づきました」
成が家を出て数ヶ月。ずっとこの胸の奥の虚しさをなんとかしたくて、ずっと苦しんできた。仕事にも没頭したし、友達にも会ったり、ずっと避けてきた電話に出たり。それでも結局は駄目で、男の人に会うと少しは解決できると思った。成がそうしてくれたように、誰かが私を励ましてくれるとこの苦しみから開放されるのではないかと、そう思って今日もここに来た。
「私、ずっと頼っていた人と会えなくなって、すごく寂しくなって、男でも作ればちょっとは楽になるかと思いました。だから今日も来たんです」
「なら、その人に会いに行かないんですか?」
「違うんです。今日やっと気付きました。これは、結局自分の問題です。自分の心の整理がつかない限り、いくら良い人にあっても、この苦しさからは開放できないと思います」
成にもう一回会えば、この心の隙間を埋められるんだろうか。
成にもう一回会って、成に応援して貰ったら、もう一回前に進む勇気が出るんだろうか。
ーいや、それは違う。
成に会えて、成に勇気づけられ、成が導いてくれたけど、結局決めるのは私だったんだ。
成がそばにいてくれたら、すごく心強いと思うけど、根本的な問題は解決しない。
「…よくわかりませんけど、彩響さんは今彼氏を作る余裕がないんですよね?」
石井さんが質問する。彩響が恐る恐る答えた。
「そういう…ことだと言っておきます」
「なら、大丈夫です。人間誰しも悩みの一つや二つくらい胸に持っているでしょう。また余裕ができたら、連絡してください。あ、もちろんその方とうまくいくことになっても、全然大丈夫です。…では、気をつけてお帰りください」
そう言って、石井さんはそのまま向こうへ向かう。その背中が見えなくなるまでずっと立っていた彩響は、長い溜息をつき、またベンチに座った。誰もいない静かな夜の公園は、頭を冷やすにはちょうどいい場所だった。
(いい人だったね、あの人…)
まだ残っていたペットボトルの水を一口のみ、深呼吸をする。冷たい空気が頬を撫でるこの瞬間、彩響は自分の胸に手を当て、心臓の鼓動に耳をすました。
(結局、決めるのは自分なのだ)
自分がこれからどう生きていきたいのか、それは自分で決めなきゃいけない。
成に会いたい。すごく会いたい。またその太陽のような笑顔に甘えたい。
ーでも、この悩みに答えを出せない限り、成には会えない。