「え?ワインとかあると思いますけど…」

「じゃあ、飲みましょう。ガンガン飲んで仲良くなりましょう、石井さん」

「え?ああ、良いですけど…」

とりあえず、この心の中のこのもやもや感をなくしたい。彩響は早速ウェイターを呼び、ワインをボトルで頼んだ。グラスに並々になるまで注いで、そのままグラスを高く持ち上げた。


「はーい、では乾杯!」

「あ、乾杯!」


とりあえず、飲もう。いっぱい飲んで、嫌なこと忘れよう。ちょうど相手してくれる人もいるし、どんどん飲むんだ、飲もう…!彩響はストレートでワイングラスをどんどん空けた。



ーそして、お店が閉店になる頃。

(うう…気持ち悪い…)

どんな話をしたのか、全く覚えていない。彩響は公園のベンチに座り、深呼吸をしながら自分を落ち着かせた。隣には心配そうな石井さんの声が聞こえた。

「大丈夫ですか?凄い飲みましたね」

「うう…大丈夫です…」

「お水飲んでください。楽になりますよ」

「申し訳ないです…うう…」


石井さんが自販機から買ってきたペットボトルを渡す。それを一口飲むと、やっと気持ちがスッキリしてきた。長い息を吐く彩響を見て、石井さんが質問してきた。


「あの…なんか嫌なことでもありました?」

「いや…なんか飲みたい気分だったので」

「まあ、そうですよね。そういうときありますよね。俺は酒より過食する方ですけど」

「ははは…」


申し訳ないのと、恥ずかしいのとが一気にやってきて目を合わせられない。彩響は気まずく視線をそらし、夜空を見上げた。落ち着いた空気の中、星がキレイに見える。


(なにをやってるんだ、私は…)


自分が情けなくて、このままどこかに逃げて隠れたい。そう思っているのを察したのか、隣の石井さんが立ち上がった。そして彩響の前に立ち、手を差し伸ばした。


「歩けますか?最寄り駅まで送ります」

「あ…」


ー「ありがとう、彩響。これからもよろしくな!」


顔を上げ、相手の顔を見る。石井さんが凄い穏やかな顔で、こっちを見て微笑んでいる。あのときも、彼は同じく手を差し伸べてくれた。まるで、デジャビューでも見ているようで、胸が痛くなる。
きっとこの人は理央が言ってたように、いい人だと思う。このままいい感じに付き合ったら、きっと楽しくなると思う。でも…。

(違う。これじゃない)